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いまどきのヴァルキューレ

ヘルギ みのまた


 ご存じの方も多いかもしれませんが、ここ数年北欧神話が脚光を浴びています。とはいいましても、北欧神話に登場するヴァルキューレが中心であり、おかしなことにそのついでに本来の主神・オーディンや、フレイヤ達がぶら下がっているような状態であるという話です。一体、どのような分野で脚光を浴びているのでしょうか?
 
 それは、ゲームやアニメといった分野です。オーディンの娘であるヴァルキューレをヒロインにすること自体は、二十年前ぐらいからあったわけですが、ここ数年に登場したいわゆる「ヴァルキューレをモチーフにしたヒロイン」は、少し事情が異なるようです。さて、どういったヴァルキューレ達がアニメやゲームに登場し、どのようにして北欧神話がより多くの人々に知られるようになったのでしょうか。今回は、一九九九年に初登場し北欧神話サイトを震撼させ、最近新たに続編が発売された『ヴァルキリープロファイル』をご紹介したいと思います。

 プレイヤーはヴァルキューレであるレナス・ヴァルキュリアとなり、北欧神話同様世界の終末ラグナロクから天界アスガルドを守るべく、人間界から勇者の魂を選定し天界へ送り込まなければなりません。その中で、勇者の魂であるエインヘルヤルとの出会いなどを通じて、封印されているレナスの記憶が少しずつ取り戻していくというものです。
 
 さて、このゲームが「北欧神話サイトを震撼させた」とは、どういうことでしょうか。それは、北欧神話を知るものにとっては大胆な設定にあります。まずはオープニングのあとにいきなり登場する、高飛車な性格のフレイです。男神で高飛車とはかなり珍しい設定だとお考えのことと思いますが、実は女神として登場しています。高飛車といえばフレイヤにぴったりではないかと思うのですが、一応彼女もこのゲームに登場しています、ぴっちぴちの幼女の姿をして。そして極めつけは、我らが主神のオーディンです。パジャマっぽい姿もさることながら、隻眼ではなく両眼でのお出ましです。ナイスミドルで若かれし頃のオーディンなのかと思いますが、つばの広い帽子すらかぶることなく、ゲームのキャラクターとしてはよいデザインですが、一見してどこの神様か分からないというのも、北欧神話を知る私たちからしますと面白味が無いですね。
 
 舞台設定もなかなか奇抜です。アース神族に敵対する巨人族が『ヴァン神族』とされ、先述のフレイやフレイヤはアース神族とされています。アース神族に対するヴァン神族というのは、北欧神話では前の歴史として書かれるか、戦神アース神族に対する豊饒神ヴァン神族として書かれる程度であり、ラグナロクまで敵対する存在として書かれるあたりは、ゲームのプレイヤーにわかりやすさを提供するためではないかと考えています。
 
 それでは、アース神族の一員のロキはこのゲームではどのように書かれているのでしょうか。北欧神話では知恵を提供してアスガルドの神々を手助けするものの口が災いして縛り上げられ、ラグナロクでは敵対することになりますが、実のところゲーム上の彼(?)も最初はアース神族の一員として登場しますが、後に敵対する立場に変わります。そのため、北欧神話とは全く別のゲームとは言い切れない一面を作ることになります。
 
 さて、話は脱線してしまいましたが、本題であるこのゲームに登場するヴァルキューレ、レナス・ヴァルキュリアはどのように描かれているでしょうか。エッダではエインヘルヤルに給仕をしているか、戦場に出かけて戦死者の魂を探すといった場面が書かれていますが、レナス・ヴァルキュリアの場合はは戦死者の魂を探す時は対話まで盛り込まれ強調されているのに対し、給仕をすることはないようです。さらに、エインヘルヤルとともに戦う場面が非常に多いのも特徴です。これは、元々プレイヤーが何らかの操作をして戦闘を行うゲームが多い中、給仕の操作という新しい分野を作るよりも、慣習的な戦闘をさせるゲームのほうがヒットを狙うクリエイターとしてのリスクも少なく、また、数多くのゲーム愛好者に受け入れられやすいという理由があるのではと考えています。
 
 いずれにせよこのゲームでは、現代の社会通念を取り入れた中世西洋風の世界観としている慣習的なゲームに対し、古代北欧における社会通念を少し取り入れて新しい世界観を提供しつつも、ヴァルキューレの「戦乙女」という要素を前面に押し出して戦闘場面を多く取り入れ、操作体系は慣習的なゲームとして仕上げているように思えます。言い換えれば、慣習的なゲームの世界観を打破するために北欧神話の世界が取り込まれ、今はやりのヴァルキューレを中心に据えたものの、ゲームとしては慣習的なゲームと何ら代わり映えしないということなのです。
 
 しかしながら、そもそもゲームにおいては北欧神話の神・人物・道具・通念といったものが単体で借用されてしまうことがほとんどであり、北欧神話の世界観が伝わることはほとんどありませんでした。しかし、『ヴァルキリープロファイル』においては、設定そのものが北欧神話をベースとしているため、それらはある程度まとまって借用され、その結果互いがリンクすることにより、北欧神話の世界観を曲がりなりにも伝えることが可能になり、より多くの人々が興味を持ったことは、このゲームの発売後インターネットのウェブ上で雨後のたけのこのように登場した新興の北欧神話サイトが物語っています。
 
 そしてこのゲームは、北欧神話を愛好する私たちにとっても、妙に北欧神話の世界観に近づいたために興味の対象となり、実際にプレイして特有の設定を理解してからエッダやサガとの相違点を洗い出し、重箱の隅をつつくような指摘をするという楽しみを提供してくれたと考え、またこのような『妙に北欧神話の世界観に近づいた』、新しいゲームの登場を願わずにはいられないことと思います。


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